
相続放棄の準備で「亡くなった方の戸籍を用意してください」と言われても、現在の戸籍だけでよいのか、出生から死亡まで集めるのか、迷うことがあります。必要な範囲は、放棄する方と亡くなった方との関係によって変わり、提出先の家庭裁判所が個別の案内を設けている場合もあります。
まず確認したいのは、提出先の家庭裁判所、放棄する方の続柄、申述期限の3点です。戸籍がそろうまで待つことで期限を過ぎないよう、書類の収集と裁判所への確認を並行して進めましょう。この記事では、相続放棄に使う戸籍の集め方を中心に説明します。
目次
相続放棄で戸籍を使う理由
相続放棄の申述では、亡くなった方の死亡の事実や、申述する方がどのような立場の相続人なのかを確認するために、戸籍関係の証明書を使います。戸籍に加えて、亡くなった方の最後の住所を確認する住民票の除票または戸籍の附票も必要になります。
戸籍は身分関係を、住民票の除票や戸籍の附票は住所に関する事項を確認する資料です。どちらも亡くなった方に関する書類ですが、証明する内容が異なるため、戸籍謄本を取得すれば住所関係の書類も不要になるわけではありません。
また、家族の間で「遺産はいらない」と伝えたり、遺産分割協議で取得する財産をゼロにしたりすることと、家庭裁判所に対する相続放棄の申述は別の手続です。戸籍の請求目的も、実際に進める手続に合わせて記載してください。
民法第938条:相続放棄の方式
要旨:相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。
戸籍は、この家庭裁判所での手続に添付する資料として準備します。親族間で作成した書面だけで、相続放棄の申述に代えることはできません。
申述先は、原則として亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。本籍地の家庭裁判所や、放棄する方の住所地の家庭裁判所と一致するとは限りません。戸籍を請求する自治体と、相続放棄を申し立てる裁判所を分けて確認しましょう。
続柄別に必要な戸籍を確認する

裁判所の全国向け案内では、共通書類に加え、申述人の立場に応じた戸籍が示されています。次の表はその基本的な整理です。実際の準備では、提出先の家庭裁判所が公表している最新の案内を先に確認してください。
| 対象 | 基本となる書類 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 共通 | 申述人の戸籍謄本、被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 | 申述人の身分関係と被相続人の最後の住所を確認する |
| 配偶者 | 被相続人の死亡の記載がある戸籍・除籍等 | 申述人と被相続人が同じ戸籍の場合は書類の重複を確認する |
| 子 | 被相続人の死亡の記載がある戸籍・除籍等 | 通常の案内で出生から死亡まで一式を求められているかを確認する |
| 代襲相続人である孫等 | 子の場合の書類に加え、本来相続人となる方の死亡の記載がある戸籍等 | 代襲関係を確認できる書類を準備する |
| 父母・祖父母等 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍等 | 死亡した子や直系尊属の状況に応じて追加の戸籍が必要になる |
| 兄弟姉妹・代襲相続人であるおい、めい | 被相続人の出生から死亡までの戸籍等、直系尊属の死亡を確認する戸籍等 | 死亡した子等の有無、おい・めいの場合の親の死亡などを確認する |
配偶者や子は一式収集が不要な場合がある
配偶者や子が放棄する場合、裁判所の全国向け案内では、被相続人について「死亡の記載のある戸籍」が示されています。相続の手続だからという理由だけで、必ず出生から死亡までの戸籍を集めるわけではありません。
例えば、亡くなった父の相続を子が放棄する場合、最初から父の幼少期の戸籍まで一式請求すると、必要のない費用や日数がかかることがあります。提出先の一覧にある証明内容を確認し、追加の指示があった場合に対応する進め方が考えられます。
父母や兄弟姉妹では確認範囲が広がる
父母や兄弟姉妹が相続人となる場合には、先順位の相続人の有無などを確認する必要があるため、全国向け案内では戸籍の範囲が広くなります。被相続人に死亡した子やその代襲者がいる場合、その方についても出生から死亡までの戸籍が必要になることがあります。
祖父母が申述する場合は、父母など申述人より被相続人に近い世代の直系尊属の死亡を確認する戸籍も関係します。兄弟姉妹の場合は直系尊属の死亡、おい・めいの場合は本来相続人となる親の死亡についても確認します。家族構成が複雑なときは、表だけで必要書類を確定しないでください。
提出先による案内の違いにも注意する
大阪家庭裁判所の個別案内では、被相続人の子・配偶者・親・兄弟姉妹について、死亡の記載がある戸籍、住民票の除票または戸籍の附票、申述人の現在の戸籍を基本として示しています。全国向け案内と、最初に提出する書類の範囲が同じとは限りません。
これは、どちらかの一覧だけを見れば全国すべての裁判所で足りるという意味ではありません。追加書類を求められることもあるため、「自分の提出先では何が必要か」を確認することが、取り寄せの無駄を減らす方法です。
問い合わせ前にまとめる情報
被相続人の氏名と死亡日、最後の住所、申述人との続柄、既に相続放棄をした親族の有無、手元にある戸籍の種類を整理しておくと、必要書類について確認しやすくなります。
戸籍が期限に間に合わないとき
相続放棄には、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という期間があります。「戸籍を請求した日から3か月」「死亡の記載が戸籍に反映された日から3か月」ではありません。
民法第915条第1項:承認・放棄をする期間
要旨:相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・放棄をする必要があります。また、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所がこの期間を伸長できる旨が定められています。
戸籍の収集中であることだけで、期間が自動的に延びるわけではありません。起算日や期間伸長の必要性に判断が伴う場合は、早めに法律専門家へ相談してください。
入手できない戸籍は追加提出を確認する
裁判所の全国向け案内では、申述前に入手できない戸籍等がある場合、申述後の追加提出でも差し支えないとされています。すべての戸籍が届くまで何もできないと考えず、提出先に不足書類の扱いを確認しましょう。
確認するときは、「どの戸籍を」「いつ」「どの自治体へ請求したか」を伝えられるようにしておきます。郵送請求書の控えや発送記録、自治体からの連絡内容があれば、収集の進み具合を整理しやすくなります。
ただし、戸籍の追加提出ができることと、申述期限を過ぎてよいことは別です。申述書の提出方法、足りない資料の説明方法、追加提出の時期などは、提出先の案内に従ってください。郵送で裁判所へ提出する場合も、期限直前に発送すれば必ず間に合うと自己判断しないことが大切です。
期限が近い場合は収集依頼だけで止めない
被相続人に多額の借入れがある、死亡から時間がたって通知を受け取った、先順位の相続人の放棄を最近知ったといった場合は、戸籍の取得とは別に法的判断が必要になることがあります。期限の判断や放棄の可否は、弁護士等へ速やかに相談してください。
行政書士へ戸籍の取り寄せを依頼する場合も、期限が迫っている事情を最初に伝えましょう。戸籍収集の依頼をしただけで、家庭裁判所への申述まで行われたことにはなりません。
戸籍を集める順番と取得代行
提出先の一覧をもとに収集表を作る
最初に、必要な書類を「誰のものか」「何を証明するか」「どこへ請求するか」で分けます。被相続人の戸籍、申述人の戸籍、住所関係の証明書を同じ欄で管理すると、不足しているものが分かりにくくなります。
| 管理する項目 | 記録する内容の例 |
|---|---|
| 対象者 | 亡くなった父、放棄する本人、本来相続人となる親など |
| 必要な証明内容 | 死亡の記載、現在の身分関係、出生から死亡まで、最後の住所 |
| 請求先 | 本籍地の自治体、住所地の自治体など |
| 進み具合 | 未請求、発送済み、補足資料を求められている、受領済み |
| 提出済みか | 今回提出するもの、先行する事件で既に提出されているもの |
出生から死亡までの戸籍が必要な場合は、現在または死亡時の戸籍を起点に、従前の戸籍や改製前の記録をたどります。一方、死亡の記載だけが必要な場合は、その目的を請求書に具体的に書くことで、必要以上に広い範囲を請求することを避けられます。
続柄によって請求方法を確認する
戸籍の請求では、必要な資料であることに加えて、請求する権限を確認されます。本人の戸籍や父母の戸籍と、別戸籍の兄弟姉妹の戸籍とでは、請求時の説明や必要資料が同じとは限りません。
戸籍法第10条第1項:本人等による請求
要旨:戸籍に記載されている者や、その配偶者、直系尊属、直系卑属は、その戸籍の謄本等を請求できます。本人には、法の定める範囲でその戸籍から除かれた者も含まれます。
兄弟姉妹という関係だけで、別戸籍の証明書を本人等と同じ扱いで請求できるわけではありません。相続放棄のために必要な場合は、続柄、提出先、必要な理由を整理し、自治体に確認します。
請求資格があり、対象の証明書が広域交付に対応している場合は、本籍地以外の自治体窓口で取得できることもあります。ただし、広域交付は郵送や代理人による請求に対応していません。行政書士へ依頼する場合は、正当な請求権限を確認したうえで、本籍地への郵送請求等により進めます。
行政書士へ依頼できる収集の範囲
当サービスでは、依頼者に代わって必要な戸籍・除籍・改製原戸籍、住民票の除票、戸籍の附票等を取り寄せるご相談を承っています。家庭裁判所や依頼先の弁護士・司法書士から必要書類の案内を受けている場合は、その一覧をお知らせください。
第三者請求等は、請求権限、利用目的、関係を確認する資料などによって受任できない場合があります。また、当サービスの戸籍収集は、相続放棄の申述代理や家庭裁判所提出書類の作成を含むものではありません。裁判手続の代理は弁護士、裁判所提出書類の作成は弁護士・司法書士にご相談ください。
戸籍等の取り寄せ代行料金
対象の証明書を1通取得:11,000円+実費
相続等で必要な戸籍を一式取得:33,000円+実費
実費には証明書の交付手数料、郵送料等が含まれます。対象者・取得範囲・期限を確認して対応をご案内します。相続放棄の裁判手続に関する費用ではありません。
届いた書類で確認すること
証明書が届いたら、通数だけでなく、必要な内容が記載されているかを確認します。「死亡の記載が必要なのに、死亡届の処理前の戸籍を取っていた」「被相続人の最後の住所が載っていない附票だった」といった行き違いを防ぐためです。
出生から死亡までの連続した戸籍を求められている場合は、一番古い戸籍があるだけでは十分とは限りません。転籍前後や改製前後のつながりを確認し、途中の期間が抜けていないかを整理します。読み方が分からないときは、請求先や戸籍収集を依頼した専門家に確認しましょう。
同じ戸籍を人数分取得する前に確認する
裁判所の全国向け案内では、同じ書類は1通で足りるとされています。例えば、兄弟2人が同じ被相続人について同時に申述する場合、被相続人の同じ戸籍を機械的に2通用意する前に、共通書類として扱えるか確認します。
同じ被相続人について、相続放棄や承認・放棄の期間伸長の事件が先行している場合、既に提出した書類の再提出が不要となることもあります。先行事件の番号や申述した方の氏名など、裁判所が確認するための情報を整理しておきましょう。
原本・写し・発行時期を一括して確認する
必要な証明内容が同じでも、原本を提出するのか、写しでよいのか、発行後の期間に指定があるのかは確認が必要です。大阪家庭裁判所の個別案内では、添付書類について写しの提出が案内されています。すべての裁判所で同じ扱いと決めつけず、提出先の指定に従ってください。
法定相続情報一覧図の写しを利用できる場合もありますが、これを提出すれば必ずすべての戸籍や住所関係資料が不要になるとは限りません。手元に一覧図があるときは、新たな戸籍を請求する前に利用できる範囲を確認すると、重複取得を避けやすくなります。
取得費用と公式書式
相続放棄の準備にかかる費用は、戸籍等の取得費用、家庭裁判所の手続費用、専門家へ依頼する場合の報酬に分けて考えます。これらを一つの費用として捉えると、郵送料や追加の証明書代を見落としやすくなります。
| 費用の区分 | 内容 | 確認先 |
|---|---|---|
| 戸籍等の交付手数料 | 戸籍、除籍、改製原戸籍、住民票の除票、附票等 | 請求する自治体 |
| 郵送に伴う費用 | 往復の郵送料、必要に応じた速達料金、定額小為替の発行料金等 | 自治体の支払方法と郵便サービスの案内 |
| 裁判所の手続費用 | 相続放棄の申述は申述人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便料 | 提出先の家庭裁判所 |
| 専門家報酬 | 戸籍収集、裁判所提出書類の作成、代理等、それぞれの依頼内容に応じた費用 | 依頼する専門家 |
連絡用の郵便料は、提出先によって案内が異なります。ほかの地域の金額をそのまま用意せず、家庭裁判所の最新の案内で確認してください。必要な戸籍の範囲がまだ確定していない段階では、取得費用の総額も確定しにくい点に注意しましょう。
公式書式・記入例ダウンロード
配布元:裁判所。次の資料は成人が相続放棄を申述する場合の公式書式です。未成年者の場合や、提出先から別の指定がある場合は、その案内に従ってください。
よくある質問
相続放棄では、全員が出生から死亡までの戸籍を集めるのですか?
一律ではありません。配偶者や子の場合、全国向け案内では被相続人の死亡の記載がある戸籍が示されています。父母や兄弟姉妹では必要範囲が広がりますが、裁判所ごとの案内もあるため、提出先を確認してください。
戸籍がそろっていないと、相続放棄の申述はできませんか?
裁判所の全国向け案内では、申述前に入手できない戸籍等を申述後に追加提出することが認められています。具体的な提出方法を家庭裁判所へ確認し、戸籍を待つことで期限を過ぎないようにしてください。
兄弟が先に提出した戸籍を、もう一度取り直す必要がありますか?
同じ被相続人に関する先行事件で提出済みの書類は、再提出が不要となる場合があります。先行する事件の番号や提出内容を整理し、家庭裁判所へ確認してから追加取得すると無駄を減らせます。
コンビニで取得した戸籍謄本も使えますか?
必要な内容が記載された正式な戸籍証明書であり、提出先の条件に合えば利用を検討できます。ただし、コンビニ交付では必要な除籍や改製原戸籍まで取得できるとは限りません。交付方法よりも、誰の何の記載が必要かを先に確認しましょう。
死亡から3か月たっている場合は、戸籍を集めても意味がありませんか?
死亡からの経過だけで一律に判断できません。相続の開始を知った時期など、個別の事情を確認する必要があります。自己判断で諦めたり、戸籍だけ先に大量取得したりせず、弁護士等へ速やかに相談してください。
行政書士へ依頼すると相続放棄の手続も完了しますか?
当サービスの依頼内容は、必要な戸籍等の収集・取り寄せです。相続放棄の申述代理や裁判所提出書類の作成まで含むものではありません。戸籍収集と裁判手続の依頼先・担当範囲を分けて確認してください。
戸籍の準備と期限確認を並行する
相続放棄に必要な戸籍は、続柄と提出先の案内によって変わります。まず家庭裁判所の必要書類を確認し、手元の資料、既に提出されている資料、これから取得する資料を整理しましょう。
戸籍が間に合わないときは、追加提出の扱いを確認することが大切です。行政書士に収集を依頼する場合も、申述期限と裁判手続の担当を明確にし、必要な範囲を効率よく取り寄せてください。
本記事は2026年10月30日時点で確認した公的機関の案内をもとにしています。提出書類や納付方法は、実際に申述する家庭裁判所の最新の案内をご確認ください。
